こんにちは、コマルです。「点呼の記録をAIで楽にできませんか」というご相談を、運送業のお客様からいただくことが増えました。結論から言うと、点呼というひとかたまりの業務の中に、AIに任せてよい部分と、絶対に任せてはいけない部分が混在しています。まずは次のチャートで、あなたが今AIにやらせようとしている作業がどちらに当たるかをたどってください。
運行管理者等が運転者と直接やり取りして行う、点呼そのもの
AIに任せられない運行管理者等が確認した内容を、あとから読める形に整える作業
体裁のみ任せられる点呼の実施・記録そのものではない、周辺の事務作業
AIに任せてよい「実施・確認・判断」は人(運行管理者等)/「体裁・集計・下書き」はAIに任せられる

マル

タイガー
A:確認と判断——ここは運行管理者等の仕事
貨物自動車運送事業の輸送安全規則は、運転者が乗務を始める前・終える前などに、事業者(実務上は運行管理者等)が運転者に対して点呼を行うことを義務付けています。国土交通省の解釈通達には、業務前点呼で確認すべき事項として、点呼執行者名・運転者名・車両を識別できる表示・点呼日時・点呼方法に加えて、次の内容が挙げられています。
- 運転者の酒気帯びの有無
- 運転者の疾病、疲労、睡眠不足等の状況
- 日常点検の状況
- 指示事項
これらは、その場の運転者本人の状態を、運行管理者等が直接やり取りして確認し、運行してよいかを判断する行為です。ChatGPTのような生成AIは、目の前の人の顔色や息のにおいを確認することも、その日の体調を判断することもできません。ここはAIに任せる・任せないという以前に、そもそもAIにはできない作業です。
Aの範囲(AIに任せられない)
- 酒気帯びの有無・疾病や疲労の状況の確認
- 日常点検の状況確認と、運行してよいかの判断
- 運転者への指示
B:記録と保存——電子化はよいが、中身は人が確定する
点呼を行ったら、その内容を記録し、保存する義務があります。解釈通達はこの義務についてこう説明しています。
点呼の確実な励行を図るため、点呼を行った旨並びに報告及び指示の内容を記録し、かつ、その記録の保存を1年間義務付けたものである

マル

タイガー
つまり、運行管理者等が確認して確定した内容を、点呼簿の書式に転記したり、表計算ソフトで清書したり、見やすく整形したりする作業は、AIに下ごしらえさせてかまいません。ただし条件が1つあります。AIが整形してよいのは「すでに確認・確定した内容」だけであり、点呼をしていないのに記録だけそれらしく作ることは、記録の虚偽記載になります。清書と創作は別物だと考えてください。
Bの範囲(内容は人・体裁はAI可)
- 記録の中身(酒気帯びの有無・状況・指示内容)は運行管理者等が確定する
- 転記・清書・体裁の統一はAIに任せてよい
- 「確認していないことをそれらしく記録する」のは虚偽記載になるので不可
C:周辺事務——ここはAIに任せやすい
点呼そのものではなく、点呼を取り巻く事務作業なら、もっと積極的にAIを使えます。たとえば、毎月の点呼記録を集計して運行管理者向けの報告書にまとめる、安全教育で使う資料のたたき台を作る、日々の運行日報の文面を整えるといった作業です。これらは法律が「誰が確認し、誰が記録するか」を指定している業務ではないため、AIに下書きを作らせて、最後に人が確認する進め方で問題ありません。

マル

タイガー
例外1:IT点呼・遠隔点呼という「国が認めた自動化」
「点呼を自動化する仕組みなら、もう国にあるのでは」と思う方もいるかもしれません。実際にあります。国土交通省の告示(令和5年国土交通省告示第266号)は、対面と同等の効果を持つ方法として、遠隔点呼・業務前自動点呼・業務後自動点呼を定めています。ただしこれは、汎用の生成AIを使えばよいという話ではありません。解釈通達では、輸送の安全確保の実績が優良な営業所(Gマーク営業所)が、国が定めた点呼機器とカメラ・ディスプレイ等を使い、運行管理者等が運転者の状態を随時確認できることを条件にしています。
IT点呼・遠隔点呼のポイント
- 対象は告示で定められた専用の点呼機器を使う仕組み
- 優良な実績のある営業所であることなど、適用の要件がある
- 運行管理者等が状態を確認する役割は、自動化してもなくならない
例外2:一人で事業を行っている場合
もう1つの例外は、事業者が1人で運送業を営んでいるケースです。この場合は、対面で点呼を受ける相手がそもそもいません。解釈通達は、アルコール検知器を使った酒気帯びの確認や車両の日常点検など、点呼で確認すべき事項を事業者自身が確認し、運行の可否を自分で判断する方法を認めています。この場合も、確認・判断の主体が「AI」に変わるわけではなく、あくまで事業者本人が確認する点は変わりません。
Comaruの実務ではこう判断している
Comaruでは、法令で定められた記録やチェックが関わる業務を設計するとき、「実施・判断そのもの」と「記録の体裁を整える作業」を必ず分けて考えます。たとえば介護施設のシフト自動化を手がける際も、希望休の保護のように法や契約で守るべき判断は必ず人が確定し、AIやシステムが担うのは組み合わせの計算と表の整形までに留めています。

マル

タイガー
迷ったときの優先順位
- まず「誰が確認・記録する義務を負っているか」を確認する
- 義務を負う本人が確定した内容だけを、AIに整形させる
- 確認していないことをAIにそれらしく書かせない
まとめ:境界は「確認・判断」と「体裁・集計」のあいだにある
点呼記録をAIで楽にしていいかという問いに、一言で答えるなら「作業の種類による」になります。酒気帯びや体調の確認、運行してよいかの判断は、運行管理者等の法定業務であり、AIに肩代わりさせることはできません。一方、確認・確定済みの内容を点呼簿へ清書する作業や、点呼記録の集計・報告書づくり、安全教育資料の下書きといった周辺事務は、AIに任せて負担を減らせます。
国が認めているIT点呼・遠隔点呼も、専用の機器と要件を備えた仕組みであり、汎用の生成AIに置き換えられる話ではありません。境界を「点呼」という言葉ではなく、「確認・判断」か「体裁・集計」かで見分けるようにすると、判断がぶれにくくなります。
△=内容そのものは運行管理者等が確定済みで、AIは体裁を整える作業だけを担う欄。
記録の量そのものをどこまで残すか迷う方はAIを使った記録、どこまで残せばいい?、AIによる清書が中身を薄くしてしまう落とし穴は日報をAIに書かせたら、部下の日報が「見た目だけ」良くなった話で具体例を紹介しています。まずは点呼以外の小さな事務から始めたい方は属人化した業務を1つだけAIで楽にする、小さな自動化の事例集も参考にしてください。
30分無料相談では、「うちの点呼まわりの作業、どこまでAIに任せていいか」を、実際の業務フローに合わせて一緒に整理できます。法定記録の扱いに不安を感じている方は、お気軽にどうぞ。
参考(一次情報):国土交通省「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」(PDF)
※本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。点呼の実施方法・IT点呼の要件等は改定されることがあるため、実際の運用にあたっては最新の公表情報をご確認いただくか、運輸支局や専門家にご相談ください。
この記事は、みなさんの“困る”を解決する猫の手「コマル」がお届けしました。 「うちの場合はどうなる?」は 30分無料相談 でどうぞ。
