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図面をAIに読ませていいのか。町工場の技術継承と機密のあいだ

こんにちは、コマルです。「ベテランの頭の中にある勘どころを、AIに聞き出させてマニュアルに残せないか」——町工場や機械加工の現場で、こんな相談をよく受けます。定年が近い職人さんの技術を、どうにかして次の世代に渡したい。とても前向きな話です。ただ、その一歩を踏み出す前に、多くの社長さんが同じところで足が止まります。「そもそも、取引先からもらった図面をAIに読ませていいのか」という不安です。

技術継承のために残したい知見と、取引先との約束・自社の秘密として守るべき図面。一見どちらかを選ばなければいけないように見えますが、この2つはどちらか一方を諦めなくても両立できます。ポイントは「何を」AIに渡すかの中身を分けて考えることです。今日はその分け方を、マルとタイガーの対話で整理します。

技術継承と機密、何と何がせめぎ合っているのか

マル

うちの工場、ベテランの職人さんが定年間近でさ。「この材質のときは送り速度を落とす」みたいな勘どころを、AIに聞き出させて手順書にできないかなって考えてるんだけど。

タイガー

いい着眼点だね。ベテランの暗黙知を言語化するのは、生成AIがかなり得意な作業のひとつだよ。ただ、その相談を進める前に、必ず確認してほしいことがひとつある。

マル

確認すること?

タイガー

「その手順を話すとき、図面そのものを見ながら話していないか」ってこと。図面って、多くの場合は自社で作ったものじゃなくて、取引先から預かったものだよね。

マル

あ……たしかに。うちの図面、ほとんど発注元からもらったものだ。それが何か問題になるの?

タイガー

なるんだ。取引先からもらった図面は、多くの場合そのまま取引先の営業秘密であり、契約書(NDA=秘密保持契約)で外部に出さないと約束している対象そのものでもある。それを外部のAIサービスに入力すると、約束を破ったことになりかねない。

技術継承の相談を掘り下げていくと、多くのケースでこの2つが同時に出てきます。片方だけを見て動くと、あとで困ることになります。「早く残したい」気持ちが先に立つほど、図面をそのまま見せながら相談したくなりますが、そこにこそ落とし穴があります。

ここでせめぎ合っている2つのこと

  • 技術継承のために、ベテランの知見をなるべく多く言語化して残したい(会社の将来のための投資)
  • 図面は取引先とのNDA対象であり、自社にとっても外部に出せない営業秘密になりうる(守るべき約束と法律)

マル

じゃあ、技術継承はあきらめるしかないの……?

タイガー

あきらめなくていいよ。「図面そのもの」と「加工のコツ・段取り」は別物として扱えるんだ。ここを分けて考えれば、両方とも守れる。順番に見ていこう。

図面そのものは、なぜ「入れてはいけない」のか

マル

図面を外部のAIに入力しちゃいけないのって、具体的にはどの法律の話なの?

タイガー

不正競争防止法という法律に、「営業秘密」を守るための規定があるんだ。経済産業省の「営業秘密管理指針」(令和7年3月最終改訂)には、営業秘密の定義がこう書かれている。

不正競争防止法(以下、「法」という。)第2条第6項は、営業秘密を①秘密として管理されている[秘密管理性]②生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報[有用性]であって、③公然と知られていないもの[非公知性]と定義しており、この三要件全てを満たすことが法に基づく保護を受けるために必要となる。

マル

秘密管理性・有用性・非公知性……。むずかしい言葉が並んでるけど、図面ってこの3つに当てはまるの?

タイガー

当てはまることが多いよ。加工図面は事業活動に役立つ技術情報で[有用性]、外に公開されていない[非公知性]。そして取引先が社外秘として扱っている、つまり「秘密として管理している」[秘密管理性]。この3つが揃うと、法律上の保護を受ける営業秘密になる。

マル

「秘密として管理している」って、具体的にはどういうこと?

タイガー

「関係者以外には見せない」「社外秘の印がある」「アクセスできる人を限定している」といった扱いのことだよ。取引先は、図面をそういう扱いで管理しているからこそ、法律上も秘密として守られる。その管理を、こちらが外部のAIサービスへの入力で崩してしまう——それが問題の核心なんだ。

図面に社外秘の印を押す、閲覧できる社員を限定する、共有フォルダのアクセス権を絞る——こうした手間を取引先がかけているからこそ、法律上の保護も成り立ちます。外部のAIサービスに図面を入力する行為は、この「秘密として管理している」状態そのものを崩しかねません。うっかり入力してしまった場合、あとから取り消すことはできない点も踏まえておく必要があります。

図面そのもの

寸法・形状・材質指定・数値データ

取引先が渡してくれた設計情報。取引先の営業秘密であり、多くの場合NDAの対象そのもの

→ 外部AIへ入力しない

加工のコツ・段取り

経験則・判断の順番・つまずきどころ

どの図面にも共通する、ベテランの頭の中にある自社の暗黙知。特定の取引先の数値を含まない

→ 言語化してAIに聞き出させてよい

迷ったら「取引先の名前・図番・寸法を消しても意味が通じるか」で仕分ける。通じなくなるなら図面側、通じるならコツ側

図1「図面そのもの」と「加工のコツ・段取り」の仕分け。取引先の名前・図番・寸法を消しても意味が通じるかで判断する。

マル

なるほど……。図面を入力すること自体が、取引先の「秘密として管理している」状態を崩しちゃうんだね。

タイガー

そのとおり。しかも多くの場合、これとは別にNDAでも「第三者に開示しない」と約束している。法律上の営業秘密であることと、契約上の約束、この両方に触れうるから、図面そのものの入力はやめておいたほうがいい。

図面そのものを入力してはいけない理由

  • 取引先が「秘密として管理している」情報は、不正競争防止法上の営業秘密になりうる(秘密管理性・有用性・非公知性の3要件)
  • 外部AIへの入力は、その「秘密として管理している」状態を崩す行為になりかねない
  • 多くの場合、NDAで「第三者に開示しない」と別途約束もしている

では技術継承はあきらめるのか——「コツ」は言語化してよい

ここまで読むと、技術継承の話自体を諦めたくなるかもしれませんが、そこまでする必要はありません。図面から「加工のコツ・段取り」だけを切り離せば、AIに手伝わせられる領域は十分に残ります。切り離し方さえ覚えてしまえば、迷う場面はぐっと減ります。

マル

じゃあ、AIに聞かせていいものって、結局何が残るの?

タイガー

「加工のコツ・段取り」の部分だよ。「この材質のときは送り速度を落とす」「この工程は先にこっちを締める」といった経験則は、特定の取引先の図番や寸法を含まなくても、ちゃんと意味が通じる。これは図面の中身じゃなくて、ベテランの頭の中にある、自社の暗黙知なんだ。

マル

同じ「図面の話」でも、扱いが全然違うんだね。

タイガー

うん。仕分け方はシンプルで、「取引先の名前・図番・寸法を消しても、話が成り立つかどうか」で判断する。成り立たなくなるなら図面側、成り立つならコツ側。この線を最初に引いておくと、迷わなくなるよ。

マル

具体的には、どうやって聞き出せばいいの?

タイガー

まずは図面が見えない場所で、ベテランに実況してもらいながら録音する。それをAIに文字起こしさせて、聞き役として「例外はどんな時ですか」「新人が最初につまずくのはどこですか」と掘り下げさせるんだ。この聞き出し方のコツは、ベテランの頭の中をAIで手順書にする、聞き出し方のコツで具体的に紹介しているよ。

「コツ」側としてAIに任せてよいもの

  • 「この材質・この形状のときはこうする」といった経験則・判断の順番
  • 特定の取引先の図番・寸法・数値を含まない、自社に共通する暗黙知
  • 迷ったら「固有名詞と数値を消しても話が成り立つか」で判断する(次の節の4ステップも参照)

実務では、この4ステップで線を引いている

マル

頭では分かったけど、実際の作業の場でうっかり図面ごと話しちゃいそう……。

タイガー

そこは気をつけようと思うだけじゃなく、仕組みで防ぐのが確実だよ。

気をつけようという意識だけに頼ると、忙しい現場では必ずどこかで崩れます。慣れに頼るより、手順として仕組み化したほうが確実です。次の4ステップは、Comaruが工場のお客様と技術継承を整理するときに、実際に使っている進め方です。特別な道具は要らず、話す順番と場所を決めるだけで再現できます。

1
図面を画面や机の上に置いたまま話さない実況・録音・AIとの相談は、図面そのものが見えない場所で行う
2
固有名詞と数値をいったん外して話す「A社の図番◯◯」ではなく「この材質・この形状のとき」に言い換える
3
AIには手順・判断根拠だけを聞き出させる送り速度、締め付け順序、検査で必ず見る箇所など、コツの部分に絞る
4
できた手順書を人が読み、機密が混ざっていないか最終確認するうっかり具体的な取引先名や図番が残っていないかを、AIではなく人の目でチェック
図2機密を守りながら技術継承を進める4つのステップ。図面が見えない場所で、固有名詞を外して話す。

マル

図面が取引先とのNDA対象になっているかどうかは、どうやって確認すればいいの?

タイガー

契約書に「外部ツール・AIサービスへの入力を禁じる」と明記されているケースも増えているし、書いていなくても「第三者への開示は事前承諾が必要」という条項があれば、AIサービスへの入力も同じ扱いで考えたほうが安全。契約書の文言ごとの読み方は、秘密保持契約(NDA)を結んでいる相手の情報、AIに入れていい?にまとめてあるから、心配なら一度そちらも確認してみて。

マル

図面が見えない場所で話す、固有名詞を消す、AIには判断根拠だけ聞かせる、最後は人が確認する。この4つなら、うちの現場でもできそう。

タイガー

その順番を守れば、技術継承と機密保持、両方とも諦めずに進められるよ。

実務での線の引き方

  • 図面が見えない場所で、AIとの相談・録音を行う
  • 固有名詞と数値を外し、「この材質・この形状のとき」に言い換えて話す
  • できた手順書は、機密が混ざっていないか必ず人の目で最終確認する

まとめ:図面は入れない、コツは言語化する

図面をAIに読ませていいかという問いへの答えは、「全部だめ」でも「全部OK」でもありません。取引先から預かった図面そのものは、不正競争防止法上の営業秘密になりうるうえ、NDAの対象でもあることが多く、外部AIへの入力は避けるべきです。一方で、ベテランの経験則や段取りといった加工のコツは、特定の図面の数値を含まない自社の暗黙知であり、言語化してAIに手伝わせてかまいません。

仕分けの目安は、「取引先の名前・図番・寸法を消しても話が成り立つか」です。成り立つならコツ側、成り立たないなら図面側。この線を最初に引いておけば、技術継承と機密保持のどちらも諦めずに進められます。

コツの聞き出し方はベテランの頭の中をAIで手順書にする、聞き出し方のコツ、NDA対象の情報の扱いは秘密保持契約(NDA)を結んでいる相手の情報、AIに入れていい?、AIへの入力全般の線引きはChatGPTに会社の情報を入れて大丈夫?、入れていい情報の判断基準はAIに入れていい情報はどこまで?にまとめています。

30分無料相談では、「うちの現場だと、図面のどこまでが機密で、どこからがコツなのか」を、実際の図面や作業の流れに合わせて一緒に整理できます。技術継承を進めたいけれど機密が心配、という方はお気軽にどうぞ。


参考(一次情報):経済産業省 営業秘密管理指針(令和7年3月最終改訂)

※本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個々の図面が営業秘密や契約違反にあたるかどうかの判断は、契約書の文言や取引先との関係によって異なります。個別の判断が必要な場合は、専門家にご確認のうえで対応してください。

この記事は、みなさんの“困る”を解決する猫の手「コマル」がお届けしました。 「うちの場合はどうなる?」は 30分無料相談 でどうぞ。